面接でよく見せようとする会社が、3ヶ月後に自分でミスマッチ離職を作っている

面接でよく見せようとする会社が、3ヶ月後に自分でミスマッチ離職を作っている
採用支援2026.08.14文・林勝郎

せっかく採用したのに、3ヶ月もたたずに辞めてしまった。エン・ジャパンの早期離職に関する調査でも、離職理由として最も多く挙げられているのは「仕事内容のミスマッチ」で、全体の57%を占める。つまり早期離職の多くは、入社前に思い描いていた仕事や職場と、実際の現場との”ギャップ”が引き金になっている。だが「ミスマッチだった」というだけでは、具体的に何が違ったのかが見えてこない。残業の多さなのか、人間関係なのか、仕事の難易度なのか。理由が曖昧なままだと、採用コストをかけ、面接を丁寧にやった側の会社も、どこを改善すればいいのかが分からなくなる。だが実際には、改善すべき場所は決まって面接そのものにある。面接で「うちはこんなにいい会社です」を頑張れば頑張るほど、3ヶ月後のミスマッチ離職を自分で作っている。この逆説に気づかないまま、採用コストを毎年かけ続けている会社が多い。

POINT 01面接を「PRの場」にしすぎると何が起きるか

採用に困っている会社ほど、面接を「選考の場」であると同時に「売り込みの場」として使う傾向がある。残業が多い月があっても触れない。体制がまだ整っていない部分は話さない。「アットホームな職場です」とだけ言って、具体的な仕事の実態は出さない。候補者が来てくれるかどうか不安だから、とにかく良い面を前に出す。気持ちはわかる。だが採用を営業に置き換えて考えると、これは押し売りというより、実態を偽って売っているのに近い構造だ。偽って売れば、後で必ずクレームになる。採用でも同じだ。入社後に「聞いてなかった」が出た時点で、そのミスマッチは面接の段階で作られていた。

問題は、良い面だけを見せる面接が、短期的には成功して見えることだ。候補者は好印象を持って入社を決める。だが実際の職場に立った瞬間、面接で聞いていた話と目の前の現実にズレが生まれる。人は、最初から知っていたことより、期待を裏切られたことのほうを強く不満に感じやすい。だからこそ、誠実に伝えていれば受け止められたはずの残業や課題が、隠したことでかえって「信頼できない会社」という評価に変わってしまう。

人手不足が続く中、「他社に決められたくない」という焦りから、つい良い面を強調したくなる会社は多い。だが候補者は複数社を比較検討している。仮に他社より見栄えの良い言葉で口説けたとしても、入社後の実態が伴わなければ、比較対象はすぐに「辞めた前の会社」に変わるだけだ。

面接で良い面だけを話すと、入社直後にギャップに気づき、3ヶ月後にミスマッチ離職に至るまでの流れを示すタイムライン図

このミスマッチが生む負担は、辞めた本人だけの問題では終わらない。求人媒体への再出稿費用、面接にかけた時間、教育に投じたコストがすべて無駄になり、残ったメンバーは欠員分の業務をカバーしなければならない。採用担当者にとっては「また一から探し直し」であり、現場にとっては「また新しい人が辞めた」という疲労感が積み重なる。面接で無理に良く見せようとした分だけ、この負担はあとから重くのしかかってくる。面接で見栄えのいい言葉を並べるコストと、辞められたあとに同じ採用活動をもう一度繰り返すコストを比べれば、後者のほうが圧倒的に大きい。

POINT 02正直に話すほど、「本当に合う人」が残る

「正直に言ったら来てくれなくなるんじゃないか」という不安をよく聞く。だが考えてほしいのは、正直に伝えて来なくなった人は、入社しても早く辞める確率が高い人だということだ。入社前に自己選択してもらうほうが、会社にとっても候補者にとっても誠実だ。

組織心理学ではこれを「RJP(Realistic Job Preview/現実的な仕事情報の事前開示)」と呼ぶ。提唱したのは1973年、アメリカの産業心理学者ジョン・ワナウス(John Wanous)である。仕事の厳しい面や課題もあえて含めて伝え、入社前に候補者自身に「それでも自分に合うか」を判断してもらう考え方で、良い面だけを伝えるより手間はかかるが、結果的に入社後の早期離職を防ぐ効果があるとされている。

具体的に、面接での言葉をどう変えるか。NG例とOK例で見る。

  1. 繁忙期の話(NG):「残業はほとんどありません」

繁忙期の話(OK):「3月と9月は忙しくなりやすく、夜遅くなることもあります。それ以外は基本定時を守っています」

  1. 職場の課題(NG):「職場の課題は特にないです。みんな仲がいい職場です」

職場の課題(OK):「マニュアルがまだ整備できていない部分があります。一緒に作っていく感覚を持てる方に来てもらいたいと思っています」

  1. 仕事の難しさ(NG):「慣れれば誰でもできる仕事です」

仕事の難しさ(OK):「最初の2〜3ヶ月は覚えることが多くて大変です。だからこそ定着した人には安定した環境を用意しています」

都合の悪い話を隠す面接(NG)と、実態を伝えて選んでもらう正直な面接(OK)を対比させた図解

NG例はどれも嘘ではない。だが「実態を伝えていない」という点で、入社後に「違った」を生む種になる。OK例は不安を煽っているのではなく、実態を伝えた上で「それでも来たいか」を相手に判断させている。相手に自発的に「入りたい」と思わせることが、採用を長続きさせる唯一の方法だ。この一手間を惜しんだ結果が、POINT01で見たような再採用のコストとなって返ってくる。正直さは、短期的には遠回りに見えて、実は最も費用対効果の高い採用活動だ。

まとめ:面接を「相互理解の場」に変える

採用で大切なのは、来てもらうことではなく、「それでも来たい」と言ってもらうことだ。正直に職場の実態を伝えると、合わないと感じた人は来なくなる。一見、応募数が減るように見える。だが残った人は、実態を知った上で選んでいる。だから「聞いていなかった」は起きない。面接を「いい会社を売り込む場」から「お互いが判断する場」に変えること。それだけで、3ヶ月後の退職届は確実に減る。面接を採用担当者だけの仕事だと捉えず、現場の実態を最もよく知る社員の声を反映させることも欠かせない。誰か一人が良く見せようとしなくても、複数の視点で実態を伝えられる体制を作っておくことが、遠回りに見えて一番の近道になる。面接で正直に話すことは、応募数を減らす行為ではなく、採用のやり直しという最も高くつくコストを避けるための投資だと捉えたい。

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候補者理解から始める採用|採用も営業と同じで、相手理解が起点になる

候補者理解から始める採用|採用も営業と同じで、相手理解が起点になる
採用支援2026.08.17文・林勝郎

求人票の文章を工夫すれば応募が増えると考えている経営者は多い。だが採用も、営業と同じ考え方で捉えると分かりやすい。相手(候補者)を理解せずに発信した言葉は、どれだけ工夫しても届かない。

POINT 01採用における「顧客理解」とは何か

営業でうまくいく提案は、まず相手の課題を理解することから始まる。採用も同じで、まず「どんな人が、何に困っていて、何を求めて転職・就職を考えているのか」を理解しないまま求人票を書いても、響く言葉にはならない。

多くの中小企業の求人票は、「自社が求める条件」だけを並べている。だがそれは営業でいう「自社の製品の機能」を並べているのと同じで、相手にとっての「自分ごと感」が生まれない。候補者が本当に知りたいのは、自社に入ったらどんな未来が待っているかだ。

営業の世界ではこの話は目新しくない。「機能」を並べるだけの提案書は響かず、相手が得るベネフィットまで踏み込んで初めて心が動く、というのは営業研修でもよく語られる話だ。ところが同じ会社が、採用になった途端この原則を忘れてしまう。求人票には「賞与年2回」「完全週休二日制」「駅から徒歩5分」といった条件が並ぶが、それを読んだ候補者の頭に浮かぶのは、条件そのものではなく「自分がここで働いたらどうなるのか」という問いへの答えだ。

採用と営業が同じ構造を持つのは偶然ではない。どちらも「相手に、自分にとって価値のある未来を想像してもらう」ことがゴールだからだ。営業なら相手は顧客、採用なら相手は候補者というだけで、やるべきことの本質は変わらない。まず相手を理解し、相手の言葉で語り直す。この基本を飛ばして表現だけを磨いても、届く言葉は生まれない。

実際、母集団は集まっているのに内定辞退や早期離職が続く企業ほど、求人票の「条件」は磨き込まれているのに「相手が誰か」を考えた形跡がないことが多い。母集団形成の技術がどれだけ進んでも、届ける相手の理解が伴わなければ、選考の後半で歯車が噛み合わなくなる。

これは中小企業に限った話ではない。大手企業でも、採用ブランディングという名のもとで自社の魅力ばかりを一方的に発信し、実際に働く候補者側が何を知りたいかという視点が抜け落ちているケースは珍しくない。規模の大小ではなく、発信の起点をどこに置くかという問題だ。

求人票は「発信」の最終的な出力にすぎない。その手前にある採用計画や面接設計まで含めて、候補者にとっての情報体験として設計し直すと、条件を並べる作業だけでは見えてこなかった改善点が浮かび上がってくる。

やり方は難しくない。求人票を書き終えたら、一度「この文章を読むのは自社ではなく、転職を迷っている本人だ」という前提で読み返してみる。条件の羅列に、候補者が知りたい問いへの答えが一つも入っていなければ、それは書き直すべきサインだ。

営業と採用は同じ構造であることを示す対応図

POINT 02候補者理解を深める3つの視点

では、何を材料にすればいいのか。「候補者の気持ちになって考える」と言われても抽象的でピンとこない人のために、具体的に情報を集める3つの視点を挙げる。

  1. 今在籍している社員が、入社前に何を求めていたかを聞く:実際に入社を決めた理由が、一番リアルな候補者理解の材料になる。求人票の綺麗な言葉ではなく、面接で何を質問したか、最終的に何が決め手になったかを、社員自身の言葉で聞き出す
  2. 候補者が転職・就職で不安に思っていることを想像する:待遇だけでなく、「この会社でやっていけるか」という不安に応える情報を用意する。未経験者なら「ついていけるか」、経験者なら「今のやり方を評価してもらえるか」など、応募する立場によって不安の中身も変わる
  3. 「どんな人に来てほしいか」を、条件でなく人物像で描く:スキルの条件だけでなく、どんな考え方の人と働きたいかまで言語化する。「Excelができる人」ではなく「地道な作業を面倒くさがらずに続けられる人」のように、働く姿が思い浮かぶ言葉に置き換える

この3つは、別々に使うものではない。社員インタビューで拾った言葉と、候補者の不安への想像、そして描いた人物像を突き合わせることで、はじめて「誰に何を伝えるか」の輪郭がはっきりする。どれか一つだけに頼ると、情報が偏ったまま求人票に反映されてしまう。

候補者理解を深める3つの視点のアイコン

特に1つ目の「在籍社員に聞く」は、実行のハードルが低いわりに効果が大きい。人事や経営者が改まって聞くと社交辞令が返ってきやすいので、日常の雑談の中で自然に聞き出す、あるいは入社時のアンケートを振り返る、といった聞き方の工夫も有効だ。

求人票の表現を磨く前に、相手を理解する。この順番を間違えると、どれだけ言葉を工夫しても応募にはつながらない。

この3つの視点は、一度整理すれば終わりではない。採用市場も候補者の意識も変わり続けるため、定期的に見直す前提の「生きた情報」として扱う必要がある。

まとめ:採用も、相手理解が入口になる

応募が来ない原因を、求人票の見た目や表現の問題だと考えてしまいがちだ。だが本当の入口は、営業と同じ「相手理解」にある。

このシリーズの第1話で見た「求人票を直しても応募が来ない理由」の答えがここにある。まず候補者を理解することから、採用の設計を組み立て直してみてほしい。

相手理解は一度やれば終わる作業ではない。求人票を書く前、面接で話す前、内定を出す前——採用のあらゆる場面で「今、自分は相手を見ているか、自社の条件を見ているか」を問い直す習慣が、結果的に一番の近道になる。

相手理解の効果は、求人票だけにとどまらない。面接で何を聞くか、内定通知でどんな言葉を添えるか、入社後にどんなフォローをするか——採用に関わるあらゆる接点は、結局のところ「相手をどれだけ理解しているか」で質が決まる。

逆に言えば、相手理解さえ起点に置けば、表現のテクニックに頼らなくても、候補者に響くコミュニケーションは自然と組み立てられるようになる。応募だけでなく、入社後の定着にも同じ原則が関わってくる。

求人票・面接・内定通知・入社後フォローという4つの接点すべてを、相手理解という1本の軸が貫いている様子を示す図解
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求人票を直しても応募が来ない理由|条件より先に見るべき「相手」

求人票を直しても応募が来ない理由|条件より先に見るべき相手
採用支援2026.07.24文・林勝郎

「時給を上げた。休みも増やした。それでも応募が来ない」。人手不足に悩む経営者から、こういう相談を本当によく受ける。条件面を見直しても数字が動かないとき、多くの会社は次に「もっと条件を上げるしかないのか」と考える。だが求人票が変わらないのは、待遇の問題ではなく、その求人票が”会社が欲しい人材”の話しかしていないからというケースが多い。

POINT 01求人票は、実は「相手」に向けて書かれていないことが多い

求人票を作るとき、多くの会社は自然と「うちが欲しい人材」を基準に項目を埋めていく。必要な経験、求める人物像、勤務条件。これは会社側からすれば当然の順番だ。しかし応募する側から見ると、そこに映っているのは「会社の都合」であって、自分がその会社で働く姿ではない。ある人手不足セミナーの場で語られた話がある。ビジネスとは本来、相手(顧客)のことを知って、より良い商品やサービスを提供するから成り立つものだ。採用も、営業でお客さんを理解しようとするのと同じ考え方で捉えるとわかりやすい。相手を理解しないまま条件だけをいじっても、人手不足は解消されない。

実際に求人票を並べてみると、この違いは見えやすい。「未経験歓迎」「アットホームな職場」「頑張り次第で稼げる」——並んでいるのは条件と姿勢の表明であって、応募する人が本当に知りたい「入社後、自分がどう過ごすことになるのか」という具体的な像ではない。営業で言えば、商品の機能ばかりを説明して、相手が得る未来を語っていないのと同じ構造だ。採用活動を「良い人を選ぶ場」ではなく「自社を選んでもらう場」だと捉え直すと、求人票に何を書くべきかは自然と変わってくる。

会社目線から相手目線への視点転換を示す図解

実際にこの視点を意識するだけで、面接での話し方も変わってくる。「弊社の魅力は明確な評価制度です」ではなく、「評価制度によって、入社3年目のスタッフの給与がどう変わったか」を話せるかどうか。同じ情報でも、会社側の説明として渡すか、相手が知りたい形に翻訳して渡すかで、伝わり方はまったく違う。求人票はいわば”最初の面接”であり、どちらの目線に立って言葉を選ぶかで、応募してくる人の顔ぶれそのものも変わってくる。

POINT 02NG例とOK例で見る、”会社目線”から”相手目線”への言い換え

求人票の言葉を、会社目線から相手目線に変えるだけで印象は大きく変わる。難しい話ではなく、次のような言い換えの積み重ねだ。

  1. 「アットホームな職場です」→「入社1年目の◯◯さんが、毎朝どんな流れで仕事を始めているか」:抽象的な雰囲気の言葉は誰にも刺さらない。具体的な1日の様子に置き換える。
  2. 「頑張れば稼げます」→「入社◯年でどんな仕事を任され、給与がどう変わっていくか」:漠然とした期待ではなく、相手が知りたい成長の道筋を示す。
  3. 「経験者優遇」→「未経験の人が最初の3ヶ月で何を教わり、誰がフォローするか」:条件を絞るほど応募は減る。相手が不安に思う部分を先回りして答える方が効く。
  4. 「福利厚生充実」→「入社後に実際に使われている制度は何か、誰がどんな場面で使っているか」:制度を並べただけでは実感が湧かない。実際に使われている場面を見せることで、自分がその制度を使う姿を想像できる。

NG例に共通するのは、どれも「会社が言いたいこと」を書いている点だ。OK例は、応募者が本当に知りたい「入社後の自分」を先に見せている。この違いが、同じ待遇でも応募数を分ける。

言い換えるときに注意したいのは、実態にないことを”盛る”ことではない。OK例のような書き方をしても、実際にやっていなければ入社後のミスマッチを増やすだけだ。あくまで自社の実態の中から、相手が知りたい情報を選んで先に見せる、という並べ替えの作業だと捉えておきたい。

POINT 03定着も、採用と同じ「相手理解」の続きでしかない

相手理解は、採用がゴールではない。せっかく応募が来て入社しても、入社後に会社側の都合ばかりを求め続ければ、相手はまた離れていく。離職の相談を受けるとき、原因を「今どきの若者は根性がない」で片付けてしまう会社ほど、実は入社後に相手を理解する動きを止めている。採用の場面で「相手が何を知りたいか」を考えたのと同じ姿勢を、入社後も続けられるかどうか。それが定着するかどうかの分かれ目になる。

例えば、入社前には「困ったことがあればいつでも相談してください」と伝えていた会社が、入社後は忙しさを理由に新人からの質問への対応を後回しにするようになる、というのはよくある話だ。組織心理学ではこうした”会社が示した暗黙の約束が実際には守られない”状態を「心理的契約の違反(Psychological Contract Breach)」と呼ぶ。1989年に心理学者デニス・ルソー(Denise Rousseau)が提唱した「心理的契約」という概念を土台にした考え方で、約束が破られたと感じた従業員ほど会社への信頼や納得感を失い、離職に向かいやすいことが指摘されている。本人からすれば、採用時に見せられた”相手を見てくれる会社”というイメージと、入社後の現実にズレが生まれた瞬間になる。求人票の言い換えと同じで、入社後も”会社が今何を伝えたいか”ではなく”相手が今何を知りたいか、何に困っているか”を起点に接し方を考え続けられるかどうかが問われている。特に人手不足が続く職場ほど目先の欠員を埋めることに意識が向きやすいが、それはかえって早期離職を招き、次の採用コストを増やす悪循環につながりやすい。

採用と定着を貫く「相手理解」の連続性を示すタイムライン図解

定着率を上げようとして制度や研修を増やす前に、まず今の”相手理解”の姿勢が、入社後も採用時と同じ強さで続いているかを振り返る方が、遠回りに見えて効果は大きい。

まとめ:条件を上げる前に、求人票が「誰」を見ているか確認する

応募が来ない求人票は、たいてい条件が悪いのではなく、会社の都合しか書かれていない。時給を上げる前に、まずその求人票が相手(応募者)のことを理解して書かれているかを見直してみてほしい。人材はコストではなく、お客さんを理解しようとするのと同じ考え方で向き合うべき相手だ。相手を知ることからしか、人手不足は解消されない。

求人票を直す作業は、コピーライティングのテクニックの問題ではない。相手が何を知りたがっているかを、こちらが先回りして想像できているかどうかの問題だ。そしてこの姿勢は採用の場面だけで終わるものではなく、入社後の定着、日々の関わり方にまでそのまま続いていく。条件を積み増す前に、まず”誰に向けて書いているか”を一度見直すことが、遠回りに見えて一番早い変化につながる。同じ広告費、同じ条件のままでも、見る側の視点に立つだけで応募の数と質は変わっていく。

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定着は、偶然でなく設計でつくる

定着は、偶然でなく設計でつくる
採用支援2026.08.20文・林勝郎

「今年はたまたま良い人が入って、定着してくれた」。定着を運や相性の問題として語る会社は多い。だがこのシリーズで見てきたように、定着は偶然の産物ではなく、意図的に設計してつくるものだ。

POINT 01このシリーズで見てきた3つの取り組み

まず、辞めていく理由を「今どきの若者」で片付けず、データとして把握すること。次に、「頑張ってるのに評価されない」という認識の齟齬をなくすため、自己評価と他者評価のギャップを可視化する評価制度を整えること。そして、教育が「教える人」次第になる属人化を解消し、チェックリストと定期的な振り返りで仕組み化すること。

  • 問題把握:辞めていく理由を、感覚でなくデータで把握する
  • 施策①:認識の齟齬をなくす人事評価制度
  • 施策②:属人化した教育を、チェックリストと振り返りで仕組み化する
問題把握・評価制度・教育の仕組み化の3つを回し続ける関係を示す図

実際、この順番を守るかどうかで、たどり着く結果は変わってくる。データを見ずに「とりあえず評価制度を刷新しよう」と動いた場合、実態が教育の属人化にあったとしたら、評価制度をいくら整えても定着率は改善しない。新人は評価される段階に立つ前、つまり教育を受けている最中にすでに離れていってしまっているからだ。逆に、辞めていく理由をまずデータで確認し、そこで見えた課題に応じて評価制度なり教育の仕組み化なりに着手すれば、限られたリソースを的外れな施策に使わずに済む。

どれか一つだけをやっても、効果は限定的だ。データがなければ、評価制度も教育の仕組みも、勘で作ることになる。評価制度が整っていても、教える人によって育ち方がバラバラなら、そもそも評価される前に離れていってしまう。3つを繋げて、初めて機能する。

順番にも意味がある。まずデータで「どこに問題があるか」を把握しないまま評価制度から手をつけると、実際には教育の属人化に問題がある会社が、的外れな評価制度づくりに時間をかけてしまうことになる。データ→施策という順番を飛ばさないことが、遠回りを防ぐ。

POINT 02定着の取り組みを仕組みとして回し続ける

退職理由の記録を、定期的に振り返る:半年、1年単位で傾向を見直し、評価制度や教育の設計に反映する。

評価制度を、一度作って終わりにしない:認識の齟齬が起きやすい項目は、事業や組織の変化とともに変わっていく。定期的に項目自体を見直す。

教育の内容を、教える人任せにしない:新人が独り立ちするまでに何をどこまでできればいいかをチェックリスト化し、誰が教えても同じ水準で指導できるようにする。あわせて、進捗を振り返るタイミングも仕組みとして決めておく。

これらは一度整えて終わりではなく、辞めていく理由のデータが更新されるたびに、評価制度や教育の仕組みも見直していく、継続的な取り組みだ。応募支援シリーズで見てきた認知・興味・選考の設計と、この定着支援シリーズの3つの取り組みが繋がって初めて、応募が来ないところから、定着するところまでの一連の流れが完成する。

多くの会社がこのサイクルを途中でやめてしまうのは、最初の数ヶ月で目に見える変化が出ないからだ。退職理由を記録し始めても、傾向が見えてくるのは半年以上先になる。評価制度を整えても、社員がその変化を実感し始めるのは次の評価期からになる。教育をチェックリスト化しても、既存の中堅社員は「今さら」と感じ、効果を言葉にしないことが多い。短期的には何も変わっていないように見えるからこそ、”仕組みを回し続けること”自体に意味があると捉え直す必要がある。3ヶ月や半年で結果が出ないことを理由に元のやり方に戻してしまうと、それまでに蓄積したデータも、整えかけた仕組みも、すべて振り出しに戻ってしまう。

一つ注意しておきたいのは、これらの取り組みはすぐに数字として結果が出るものではないという点だ。評価制度を整えても、教育を仕組み化しても、離職率という結果に反映されるまでには、半年から1年単位の時間がかかる。短期間で効果が見えないからといって施策をやめてしまうと、そこまでの取り組みが積み上がらない。定着支援は、単発の対策ではなく、継続すること自体が効果の条件になる取り組みだと捉えてほしい。

まとめ:定着率は、結果でなく設計の質で決まる

定着率が低い会社と高い会社の違いは、社員の質でも、運でもない。辞めていく理由を把握し、認識の齟齬をなくし、教育を仕組み化する。この3つを設計し、回し続けているかどうかの違いだ。感覚に頼った採用・育成から抜け出し、定着を仕組みで作る会社を目指してほしい。

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「教える人」によって定着率が変わる会社は、教育が属人化している

「教える人」によって定着率が変わる会社は、教育が属人化している
採用支援2026.08.22文・林勝郎

「新人がなかなか育たない」「同じ教育のはずなのに、人によって定着率が全然違う」——こう感じている会社の多くは、教え方そのものが下手なわけではない。教育が、特定の先輩や上司の”人となり”に依存してしまっているだけだ。属人化した教育は、当たった相手次第で新人の定着を運任せにする。

POINT 01教育が「教える人」次第になっている実態

新人教育がうまくいっている会社とそうでない会社を比べていくと、多くの場合、教育の「仕組み」の差ではなく「人」の差に行き着く。指導が丁寧な先輩に当たった新人は早く戦力化し、そうでない先輩に当たった新人は、同じ会社に入ったはずなのに定着すらしない。会社としては同じ教育制度を用意しているつもりでも、実態は「誰が教えるか」によって中身がまったく違う——これが教育の属人化だ。

これは感覚的な話ではない。日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)が新人・若手社員の育成担当者1,000名を対象に行った調査(2022年7月実施)では、OJTの課題として「指導にバラツキがある」と回答した企業が63.6%にのぼった。「指導側に余裕(時間)がない」(64.7%)に次いで2番目に多い回答であり、”時間が足りない”とほぼ同じ水準で、”教える内容が人によって違う”ことが現場の実感として広く共有されていることがわかる。

厄介なのは、この属人化が悪意や手抜きから生まれるわけではないという点だ。教えるのがうまい先輩は、無意識のうちに新人の理解度を確認しながら説明の粒度を調整している。一方、業務そのものは完璧にこなせても、教えることに慣れていない先輩は、自分がやっている手順をそのまま見せるだけで終わってしまう。どちらも悪気があるわけではない。ただ、会社として「何を、どう教えるか」を定義していないから、教える人の資質にすべてが委ねられてしまっているだけだ。

教える先輩によって新人の育ち方の結果が分かれる配属ガチャの図

この状態を放置すると、新人の定着は”配属ガチャ”になる。優秀な指導者の下に配属された新人は育ち、そうでない指導者の下に配属された新人は「自分に向いていない」「この会社は放置される」と感じて離れていく。会社側から見れば同じ教育制度のはずなのに、体験した本人からすれば、まったく別の会社に入ったかのような差が生まれてしまう。中途採用者であっても新卒であっても、この差は変わらない。

POINT 02OJTを”型”にする——チェックリストとマニュアルで再現性をつくる

属人化を解消する方法は、教える人ひとりひとりの指導力を底上げすることではない。もっと効果が早く、再現性も高いのは、教える内容そのものを”型”にしてしまうことだ。

具体的には、新人が入社してから独り立ちするまでに何を、どの順番で、どのレベルまでできるようになればいいかを、チェックリストやマニュアルとして言語化する。これがあれば、教える側は自分の経験則だけに頼らず、決められた項目に沿って指導できる。教わる側も、自分が今どこまで進んでいるのかを客観的に把握できる。

口頭のみの教育からOJTチェックリストによる型化への図

同じJMAM調査では、OJTの課題を感じている企業の約9割が改善策を検討しており、その内容として最も多かったのが「OJTの仕組み化」で40.2%だった。「トレーナーの増員」(14.4%)や「チーム制の導入」(16.2%)よりも多くの企業が、まず”型をつくること”を優先したいと考えている。現場の感覚としても、人を増やすより先に、教える内容を整理するほうが費用対効果が高いと判断されているということだ。

型化と聞くと、マニュアル作成に大きな工数がかかるイメージを持たれがちだが、最初から完璧なものを作る必要はない。むしろ「今、実際に教えている内容を一度書き出してみる」ことから始めるほうが現実的だ。ベテランの先輩が頭の中で無意識にやっている判断や手順を、チェックリスト形式で一つずつ言葉にしていくだけで、教える人による差はかなり縮まる。書き出す過程で「実は自分も何となくでやっていた」という部分が見つかることも多く、それ自体が教育の質を見直すきっかけになる。

一度作ったチェックリストは、そのまま固定してしまわず、教える人・教わる人双方からのフィードバックをもとに更新し続けるものとして扱うことが大切だ。型は完成させるものではなく、育てていくものだと考えたほうがうまくいく。

POINT 03教育の進捗を、仕組みで定期的に振り返る

型を作っただけでは、教育の属人化は解消しきれない。もう一つ欠かせないのが、教育の進捗を定期的に振り返る仕組みだ。

チェックリストを渡しただけで、その後の進捗確認を教える側の裁量に任せてしまうと、「忙しいから今回は省略しよう」という判断が起きやすく、属人化が形を変えて残ってしまう。振り返りの頻度やタイミングそのものも、仕組みとしてあらかじめ決めておく必要がある。

振り返りの効果は、データにも表れている。研修サービスを手がけるEdWorksが会社員401名を対象に行った調査(2023年9月実施)では、研修後に上司と振り返りの場を持ったと答えたのはわずか22%にとどまった。裏を返せば、約8割は研修を受けっぱなしのまま終わっているということになる。同調査では、上司からのフォローの有無によって成果に明確な差が出ており、フォロー(説明・振り返り)が「常にあった」グループは82%が学んだ内容を実際の業務で活用できたと回答したのに対し、「ほとんどなかった」グループでは活用できたと答えたのはわずか9%だった。仕事の成果につながったかという設問でも、73%対9%という同様の開きが出ている。

週次の振り返りの有無で研修活用率に差が出ることを示す図

これは新人教育にもそのまま当てはまる。どれだけ丁寧なチェックリストを用意しても、進捗を振り返る場がなければ、新人は「できるようになったつもり」のまま次の業務に進んでしまう。逆に、短時間でも定期的に「ここまでできるようになったね」「ここはまだ一人でやるのは早いかもしれない」とすり合わせる場があれば、新人自身も自分の成長を実感でき、教える側も次に何を教えるべきかを判断しやすくなる。

振り返りは、面談のように大掛かりなものでなくていい。週に一度、5分でもいいのでチェックリストの進み具合を一緒に確認するだけで十分に機能する。大事なのは、その時間を”教える人の気分次第”にせず、あらかじめ決まった仕組みとして組み込んでおくことだ。

まとめ:定着は、教える人の当たり外れで決めるものではない

新人がうまく育つかどうかを、”教えるのがうまい先輩に当たったかどうか”に委ねている会社は、教育が属人化している。教える内容をチェックリストやマニュアルとして型にし、その進捗を仕組みとして定期的に振り返る。この2つが揃って初めて、教育の質が「誰が教えるか」ではなく「会社としてどう設計しているか」で決まるようになる。

この定着支援シリーズで見てきたように、辞めていく理由をデータとして把握すること、評価における認識の齟齬をなくすこと、そして教育を仕組み化すること。この3つが揃って初めて、定着は偶然でなく設計でつくれるものになる。

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「頑張ってるのに評価されない」は、方向性のズレでできている

「頑張ってるのに評価されない」は、方向性のズレでできている
採用支援2026.08.20文・林勝郎

「自分はこんなに頑張っているのに、会社は全然評価してくれない」。こう感じて辞めていく社員は少なくない。だが、こういうケースの多くは、本人の能力や努力量の問題ではない。会社が求めている方向と、本人が努力している方向が、そもそもズレているという、認識の齟齬が原因になっていることが多い。

POINT 01「頑張ってるのに評価されない」の正体

例えば、ある社員が「丁寧な仕事」を意識して、時間をかけてミスのない資料を作ることに力を注いでいたとする。本人にとっては、それが「頑張り」の中身だ。だが会社側が本当に求めていたのは、多少粗くてもスピード重視で数をこなすことだったとしたら、どれだけ丁寧に仕事をしても、会社の評価軸とは噛み合わない。

これは、本人の能力が足りないのでも、サボっているのでもない。会社が何を求めているかを、事前にすり合わせないまま、努力の方向だけが本人任せになっていることが根本の原因だ。本人からすれば「頑張っているのに報われない」、会社からすれば「期待した成果が出ていない」。どちらも間違ってはいないのに、話が噛み合わない状態が続き、最終的に本人が「ここでは正当に評価されない」と判断して辞めていく。

厄介なのは、この種の離職は表面上、円満退職に見えることが多い点だ。本人は「自分には合わなかった」と説明し、会社も「まあ仕方ない」で終わらせてしまう。だが実態を掘り下げると、辞める直前まで本人なりに努力を続けていたケースが少なくない。方向がズレた努力は、本人にとっては誠実な頑張りであっても、会社から見れば成果に繋がらない空回りにしか見えない。この認識のズレに、当人同士が気づかないまま関係が終わっていく。

実際、ライボの「2023年人事評価の実態調査」(全国20〜50代758人対象)では、人事評価に不満を感じている従業員は合わせて75.2%にのぼる。不満の理由としては「評価の基準が不透明だったから」が45.6%を占めており、能力や努力量そのものより、何を求められているかが伝わっていないことが、不満の大きな部分を占めている。

本人が頑張っている方向と会社が求めている方向がズレていることを示す図

POINT 02自己評価と他者評価のギャップを可視化する

この認識の齟齬を防ぐには、感覚での評価をやめ、項目ごとに自己評価と他者評価(上司評価)を並べて可視化する仕組みが必要になる。

やり方は、まず評価項目を具体的な行動レベルで設定する。「コミュニケーション力」のような抽象的な項目ではなく、「報連相のタイミング」「後輩への指導の頻度」など、確認できる行動として言葉にする。

次に、同じ項目に対して、本人がつける自己評価と、上司がつける他者評価をそれぞれ独立して行う。この段階では、お互いの点数を見せ合わない。

そのうえで、両者の評価を突き合わせる。点数が近い項目は、認識が一致している部分だ。逆に大きく開いている項目こそが、認識の齟齬が起きている場所になる。「自分は十分できていると思っていたが、上司から見るとまだ足りない」あるいはその逆。ここを見つけることが、評価制度の一番の役割だ。

ギャップが見つかったら、そこで評価の優劣を言い渡して終わりにしてはいけない。「なぜそう評価したのか」を、お互いの具体的な行動・事実をもとに説明し合う場を設ける。上司側が「丁寧さより優先してほしいことがある」と伝えられていなかったなら、それは本人の課題である以前に、会社側の伝達不足でもある。ここで初めて、次の期にどちらの方向に努力すればいいかが、本人の中で明確になる。

ギャップの可視化は、評価の点数を下げるための材料ではない。むしろ、ギャップが見つかること自体は前向きに扱うべきサインだ。ギャップが全くない状態が続いているとしたら、それは認識が完璧に一致しているのではなく、そもそも本人が「無難な自己評価」しかしていない可能性の方が高い。

POINT 03評価する前に、何を求めているかを先に伝える

ギャップを可視化する仕組みだけでは不十分で、もう一つ欠かせないのが、評価される前の段階で、会社が何を求めているかを本人に明確に伝えておくことだ。

期の始まりに、評価項目とその基準を本人と共有し、「今期はどこに力を入れてほしいか」をすり合わせておく。これをせずに評価だけを行うと、本人は自分なりの解釈で頑張った結果を、後になって「そこじゃない」と否定されることになる。事前にゴールを共有し、期の途中でも認識がズレていないかを確認し合う。この積み重ねが、評価される側の納得感を作る。

中小企業では、評価制度を作ること自体を大掛かりに考えて後回しにしがちだ。中小企業庁「2025年版中小企業白書」によれば、人事評価制度を「設けている」と回答した事業者は全体で約4割にとどまり、従業員数30名超の事業者でようやく過半数に達する水準だ。だが最初から全社員・全項目を精緻に作り込む必要はない。まずは離職が気になる部署やポジションに絞り、3〜5個程度の行動基準を決めて、自己評価と他者評価を突き合わせるところから始めれば十分だ。運用しながら項目を調整していく方が、机上で完璧な制度を作るより実際に機能する。

人事評価制度を設けている中小企業は全体で約4割、30名超の企業では過半数であることを示す図

POINT 04導入するときに気をつけたいこと

自己評価と他者評価を突き合わせる仕組みは、使い方を誤ると「監視されている」という印象を与えてしまう。特に導入初期は、ギャップが見えること自体に本人が身構えてしまうことがある。ここで大事なのは、ギャップを指摘する場ではなく、認識を揃える場だという位置づけを、最初にはっきり伝えておくことだ。「評価が低かった理由を突きつける面談」ではなく、「お互いの見え方の違いを持ち寄って、次にどう動くかを一緒に決める面談」として設計する。

また、評価項目を一度に増やしすぎないことも重要だ。項目が多すぎると、本人も上司も一つひとつの項目に向き合う時間が取れず、結局は総合的な印象で点数をつけることになり、行動レベルで基準を作った意味が薄れてしまう。最初は少ない項目から始めて、運用しながら本当に必要な項目を見極めていく方が、現場に定着しやすい。

まとめ:評価制度は査定でなく、認識をすり合わせる対話のツール

人事評価制度というと、給与や昇進を決めるための査定の仕組みだと思われがちだ。だが本来の役割は、会社が求める方向と、本人が努力している方向のズレを、定期的に発見し、修正するための対話のツールだ。自己評価と他者評価のギャップを可視化し、評価される前に期待値をすり合わせる。この2つが揃って初めて、「頑張ってるのに報われない」という理由での離職を防げる。

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「今どきの若者は」で終わらせる前に、辞めた理由をデータで見る

「今どきの若者は」で終わらせる前に、辞めた理由をデータで見る
採用支援2026.08.20文・林勝郎

「せっかく採用したのに、3ヶ月で辞めてしまった」。人手不足に悩む経営者から、この相談は本当に多い。求人票は前回のものをそのまま使い回すか、求人会社に任せて言われた通りに出しているだけ、という会社も多い。それでもなんとか採用できたのに、気づけばまた1人欠員に戻っている。こういうとき、多くの会社は「今どきの若者は根性がない」という結論に流れやすい。だが辞める理由を相手のせいにしている限り、離職率はずっと下がらない。

POINT 01「今どきの若者」で片付けた瞬間、原因を探すのをやめてしまう

「今どきの若者は」という言葉には便利なところがある。理由を深掘りしなくても、一応の説明がついた気になれるからだ。だがこれは、原因を外に置く思考であって、会社側の何が相手に合っていなかったかを見ていない。

この思考に陥りやすいのは、厳しい環境を自分自身が乗り越えてきた古参社員だ。自分が乗り越えられたのだから、今回辞めた人間の根性が足りなかっただけだ、という結論に流れやすい。だがこれは、たった一人の成功体験を基準に、育成や関わり方の正しさを判断してしまっている状態でもある(この構造については「生存者バイアス」というテーマで別記事でも詳しく扱っている)。

採用や人材の定着も、営業と同じ考え方で捉えるとわかりやすい。商品やサービスが売れないとき、「今のお客さんは分かってない」で終わらせる会社はない。相手を知って、相手に合わせて商品を作り直すはずだ。採用も同じで、「今どきの若者」で片付けた瞬間、本当の原因を探す動きが止まる。辞めた本人を責める前に、入社してからどう関わっていたかを振り返る必要がある。

実際、厚生労働省の雇用動向調査(令和6年)でも、転職者が前職を辞めた理由として挙がるのは「労働時間・休日など労働条件が悪かった」(男性8.6%、女性12.8%)、「職場の人間関係が好ましくなかった」(女性11.7%)といった、会社側で手を打てる具体的な項目だ。「今どきの若者の気質」では説明のつかない、条件と関係性の問題である。

POINT 02辞めた理由を、感覚でなくデータとして残す

多くの中小企業では、退職の理由が「なんとなく合わなかったらしい」「本人の意向」といった曖昧な言葉で片付けられ、記録として残らない。これでは、同じ理由で次の人材も辞めていくのを、毎回初めて起きたことのように扱うことになる。

ジンジブの調査(2026年3月、退職経験者・経営層計1,018人対象)では、退職者の約6割が退職時に「本音を伝えた」と回答した一方、経営層の約6割は「退職者の本音を把握していない」と回答している。さらに、予兆に気づけなかった、または気づいたが対策を打てなかった経営層は合わせて9割を超える。本音は伝わっているのに、拾えていない。ここに、感覚ではなく仕組みが必要な理由がある。

具体的にやるべきことは、そう複雑ではない。

退職者に対して、教育担当以外の人間が退職理由をヒアリングする:直属の上司や教育担当が聞くと、本音が出にくい。第三者が聞くことで、実態に近い理由が集まる。聞き方にもコツがあり、「なぜ辞めるのですか」といきなり聞くと、当たり障りのない答えしか返ってこないことが多い。「入社したときに期待していたことと、実際に感じたことで、一番差があったのはどこですか」というように、比較の形で聞くと、具体的な答えが引き出しやすい。

退職理由を、項目として記録する:「人間関係」「業務内容とのギャップ」「評価への不満」など、あらかじめ項目を決めて記録し、感想でなくデータとして蓄積する。

一定期間ごとに、記録を振り返る:半年、1年単位で退職理由の傾向を見返すと、特定の部署や時期に偏りがあるなど、個人の資質では説明できないパターンが見えてくる。

退職理由を仕組みで残す3ステップ、第三者ヒアリング・項目記録・定期振り返りを繰り返す図

例えば、退職理由を項目化して振り返ったところ、「評価に納得できなかった」という理由が、特定の部署に集中して現れることがある。これは、その部署の社員が特別に不満を持ちやすい人材だったからではなく、その部署の評価の伝え方そのものに、改善すべき点があるというサインだ。感覚のままだと「またあの部署は人が続かない」で終わっていた話が、データにすることで「評価の伝え方を見直す」という具体的な次の一手に変わる。

声を上げずに辞めていった人たちのデータを可視化して初めて、「今どきの若者だから仕方ない」という思い込みから抜け出せる。

在職中の社員にも、同じ視点は応用できる。退職者だけでなく、定期的な面談の中で「今、少し不安に感じていることはあるか」を確認し、記録しておく。辞めてから理由を集めるより、辞める前の段階でズレに気づける方が、当然打てる手は多い。データ収集は、退職者への事後対応ではなく、在職中から続ける前提で仕組み化するのが望ましい。

まとめ:辞めていく理由が見えて、初めて次の一手が打てる

定着しない会社の多くは、原因を「本人の問題」として処理し、実態を記録していない。まず辞めていった理由を仕組みとして集めることが、定着支援のすべての出発点になる。ここが見えないまま個別の施策を打っても、効果があったのかどうかすら判断できない。

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採用を、担当者の勘でなく仕組みにする|応募が来ないから、選考まで

採用を、担当者の勘でなく仕組みにする|応募が来ないから、選考まで
採用支援2026.08.20文・林勝郎

「採用がうまい担当者」に頼り切っている会社は多い。だがその人がいなくなった瞬間、採用がうまくいかなくなるとしたら、それは仕組みではなく個人の勘に依存している状態だ。採用も営業と同じで、感覚ではなく仕組みでやるべきものだ。

POINT 01このシリーズで見てきた3つの工程

このシリーズでは、候補者が会社を知る「認知」の段階、何に惹かれて応募先を決める「興味・検討」の段階、そして選考での基準と正直さについて見てきた。これらは、それぞれ単発のテクニックではない。候補者が会社を知ってから応募し、選考を受けるまでの一連の流れとして、繋げて設計する必要がある。

  • 認知:候補者は普段どこで情報を集めているか(SNS、自社ホームページという接点の整備)
  • 興味・検討:給与だけでなく、社風や人間関係をどう具体的に伝えるか
  • 選考:採用基準を言語化し、面接で実態を正直に伝える

どれか一つだけを頑張っても、他が抜け落ちていれば、応募は増えない。あるいは応募は来ても選考でつまずく。実際、SNSでの発信を頑張って応募数が増えても、選考基準が曖昧なままだと、採用の質はむしろ不安定になる。応募数という入口の数字だけを見て「うまくいっている」と判断してしまうと、選考の中身に問題があることに気づくのが遅れる。

認知・興味検討・選考の3工程を繋げた候補者の流れの図

POINT 02採用を仕組みにする3つのステップ

各工程でやるべきことを言語化し、書き出す:候補者理解の方法、面接で確認すること、SNSでの発信タイミングなど、感覚でやっていたことを文章にする。

工程ごとにチェックリスト化する:担当者が変わっても、同じ手順で進められるようにする。

結果を振り返り、次の採用に反映する:応募数、内定承諾率、選考での辞退理由を記録し、どの工程で候補者が離れているかを次に活かす。

仕組み化とは、担当者の個性を消すことではない。誰がやっても一定の水準を再現できる土台を作った上で、その人らしい工夫を積み重ねられるようにすることだ。最初からすべてを完璧に仕組み化する必要はない。まずは直近の採用活動を1件、認知・興味・選考の3段階に分けて振り返り、どこで候補者が離脱していたかを書き出すところから始めれば十分だ。

振り返る際は、応募数という結果だけでなく、工程ごとの数字を分けて見ることが重要になる。「認知の段階で興味を持った人のうち、何人が応募したか」「応募した人のうち、何人が選考を通過したか」を分けて記録すれば、どの工程で改善が必要かが具体的に分かる。応募数だけを見ていると、認知段階に問題があるのか、選考段階に問題があるのかを区別できず、対策も的外れになりやすい。

仕組み化は、机上の理想論ではない。厚生労働省がまとめた中小企業の成功事例集では、工事の進捗を可視化・マニュアル化するなど業務の標準化に取り組んだ、ある建設業の会社が紹介されている。取り組み前は年1名程度だった採用人数が、直近5年間で17名まで増えたという。担当者の勘に頼らない状態を作ること自体が、採用力の底上げにつながる。

言語化・チェックリスト化・振り返りを繰り返す仕組み化サイクルの図

まとめ:仕組みがあるから、応募から選考までの流れが安定する

採用がうまくいくかどうかを個人の勘に委ねている限り、その会社の採用力は担当者次第で不安定なままになる。認知から選考までの流れを仕組みとして整えておけば、担当者が変わっても、応募が来ない状態から、フェアな選考ができる状態まで、再現性を持って回せるようになる。

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選考でつまずく会社に共通する、2つの”属人化”|基準と、正直さ

選考でつまずく会社に共通する、2つの"属人化"|基準と、正直さ
採用支援2026.08.20文・林勝郎

候補者との接点ができ、応募が来るようになっても、選考の中身に問題があれば、良い縁は結ばれない。中小企業の選考でよくつまずくのは、大きく2つだ。「どんな人を採りたいか」が言語化されていないこと、そして「良く見せよう」として面接で実態を語らないこと。どちらも根っこは同じで、選考が担当者の感覚に依存している状態だ。

POINT 01採用にも「勘・経験・気合」の3Kがある

営業の世界に「ダメ営業マンの3K」という言葉がある。勘、経験、気合。数字で考えず、型もなく、ただ熱意で動く。再現性がないから成果が安定しない。実は採用でも、まったく同じ構造が起きている。

「なんとなく雰囲気がよかった」(勘)、「長年やってきたから、見れば分かる」(経験)、「やる気があれば大丈夫だろう」(気合)。この3つで採用を決めている会社は、意外と多い。採用基準が経営者の頭の中にしかないと、選考に関わった担当者は「なぜこの人がOKで、あの人がNGだったのか」を理解できず、次の採用に活かせない。

やるべきことは難しくない。求める人物像を、面接で確認できる言葉に変えることだ。抽象的な人物像を、行動として確認できる問いに変換する。NG例とOK例で見ると分かりやすい。

「コミュニケーション力がある人」→「前職で、話しにくい相手と協力して仕事を進めなければならなかった場面はあるか。そのとき、どう動いたか」

「素直な人」→「上司や先輩から指摘を受けたとき、直近でどう行動を変えたか、具体的なエピソードを聞く」

「向上心がある人」→「直近1年で、自分から学びに行った・挑戦したことは何か」

こうして基準を行動レベルまで具体化しておくと、面接官が変わっても、答えの評価に大きなブレが出にくくなる。ある中小企業では、社長が採用に立ち会えない日程が増えたことをきっかけに、この行動基準の言語化に取り組んだ。結果、社長不在の面接でも「なぜ合格・不合格にしたか」を後から共有できるようになり、採用の判断が特定の個人に依存しなくなった。これができて初めて、担当者が変わっても同じ基準で選考できるようになる。

抽象的な人物像を、面接で聞ける質問に変換する図

POINT 02候補者の話も、深掘りしなければ見抜けない

深掘りが必要なのは、会社側だけではない。候補者側にも、自分をよく見せようとする動きは当然ある。営業職の面接では「前職でトップセールスマンでした」という話をよく聞く。ここで大事なのは、その言葉をそのまま受け取らないことだ。「具体的にどんな商材で、一番苦労した契約はどれか。どう乗り越えたか」というように、エピソードレベルまで聞いていく。話を盛っているだけの人は、具体的な数字や状況を聞かれた瞬間に答えが曖昧になる。逆に、本当に実績がある人は、失敗や苦労も含めて具体的に話せる。基準を行動レベルで言語化しておくことは、面接官の評価を揃えるためだけでなく、候補者の話の実態を見極めるためにも機能する。

では、その深掘りを何となくの雑談で終わらせないためには、具体的にどう聞けばいいのか。使えるのが、状況・課題・行動・結果の4段階で確認していくやり方だ。まず「そのとき、組織の規模やチームの中での自分の役割はどうだったか」を聞き、話の前提をそろえる。次に、うまくいった話ではなく「その中で一番苦労した部分はどこだったか」を聞く。順調だった話しかしない人は、都合の悪い部分を聞かれた瞬間に言葉に詰まりやすい。そのうえで「数ある選択肢の中で、なぜその行動を選んだのか」を聞く。行動そのものより判断の理由を聞くことで、借り物の話か自分の頭で考えた話かが見えてくる。最後に「振り返って100点満点で自己採点すると何点か。何ができていれば100点だったか」と聞く。この問いに具体的に答えられる人は、経験を振り返る習慣がある人だ。この4段階の聞き方は、エン・ジャパンの面接ノウハウ記事やGoogleの採用ガイド「re:Work」でも、構造化面接の手法として紹介されている型に近い。ここで大事なのは、尋問のようにならないことだ。「なるほど、そういう状況だったんですね」と一言はさむだけで、圧迫感はかなり和らぐ。

深掘り質問の4ステップ、状況・課題・行動・結果を順番に聞くフレームワーク

POINT 03面接で”良く見せよう”とすると、入社後のミスマッチを自分で作る

エン・ジャパンの早期離職に関する調査では、離職理由として最も多く挙げられているのが「仕事内容のミスマッチ」で、全体の57%を占める。理由は一つではないが、この中には、面接で見えていた話と、入社後の実態にギャップがあったケースが少なくない。

採用に困っている会社ほど、面接を「売り込みの場」として使う傾向がある。残業が多い月があっても触れない。「アットホームな職場です」とだけ言って、具体的な実態は出さない。候補者に来てほしい気持ちはわかるが、これは実態を偽って売っているのに近い。面接での過度なPRは、防げるはずのミスマッチを、自分たちの手で増やしている。

「正直に言ったら来てくれなくなるのでは」という不安もよく聞く。だが、正直に伝えて応募しなくなった人は、入社しても早く辞める確率が高い人でもある。入社前に自己選択してもらう方が、会社にとっても候補者にとっても、結果的に誠実だ。

具体的に、面接での言葉をどう変えるか。NG例とOK例で見る。

「アットホームな職場です」→「繁忙期は月〇時間程度残業があります。ただ、その分閑散期は定時で帰れる社員がほとんどです」

「若手も活躍できます」→「入社2年目の社員が、今〇〇の担当を任されています。最初の半年は先輩がついて教える体制です」

良い面だけでなく、負担になりうる部分も具体的な数字や事実で伝える。これは会社を悪く見せることではなく、候補者が「自分にとって合うかどうか」を正しく判断できる材料を渡すことだ。

この考え方は、採用の世界では「RJP(Realistic Job Preview)」と呼ばれる。良い面だけでなく、負担になりうる実態も含めて事前に伝える手法だ。エン・ジャパンがRJPを導入した企業を調査した事例では、導入前は入社1年以内の離職率が37%だった企業が、RJP導入後はほぼゼロまで下がったケースが報告されている。事前に実態を知ったうえで入社した人ほど、ギャップによる早期離職が起きにくいということだ。

RJP導入前後の入社1年以内の離職率の変化

POINT 04この2つは、別々の問題ではなく同じ問題の裏表

基準の言語化と、面接での正直さ。この2つは一見別の話に見えるが、根っこは同じだ。基準が言語化されていないと、面接官は「なんとなく良さそう」という印象だけで判断し、その印象を良くするために、無意識に自社を良く見せる話し方を選んでしまう。逆に基準が具体的な行動レベルで決まっていれば、面接官は「良い印象を与えること」ではなく「基準に照らして確認すること」に意識が向く。結果として、実態を偽って良く見せる必要そのものが減っていく。

つまり、基準の言語化を先にやると、面接での正直さは後からついてきやすくなる。逆に、面接で正直に話そうと意識するだけで、基準が曖昧なままだと、何を基準に「合格」と判断すればいいのかが定まらず、結局は担当者の感覚に頼ることになる。どちらか一方ではなく、基準を決めてから、その基準に沿って実態を伝える、という順番で取り組むのが実践しやすい。

基準の言語化と面接での正直さは同じ問題の裏表であることを示す図

POINT 05基準は決めて終わりではなく、採用のたびに検証する

基準を言語化し、実態を正直に伝える。ここまでできれば選考の精度は上がる。だが、その基準自体が本当に正しいかどうかは、決めた時点では誰にもわからない。だからこそ基準は、一度決めたら終わりにするものではなく、採用のたびに検証し、改善し続けるものだと捉える必要がある。

具体的には、まず「なぜこの人を選んだのか」を、面接の時点で言葉にして残しておく。感覚で採用していると、後から振り返る材料が何も残らない。そして本当に検証すべきなのは、入社した人が早期に辞めてしまったときだ。その人の面接がどうだったか、どんな基準で合格と判断したのかを見返し、面接での判断が実際に合っていたのかどうかを確認する。基準に沿って判断したはずなのに離職につながったのなら、基準そのものか、その運用のどちらかに見直すべき点があるということだ。

採用基準は、一度作って終わりではない。選考時の判断と、入社後の結果を突き合わせながら検証し、その都度改善していくことで初めて機能する。基準を決め、運用し、結果を振り返り、基準を見直す。このサイクルを回し続けることが、属人化を防ぐ本当のゴールになる。

まとめ:基準を言語化し、実態を正直に伝える。この2つが揃って選考になる

採用基準が担当者の感覚に依存していれば、誰を採るべきかがブレる。面接で実態より良く見せようとすれば、入社後にミスマッチという形でツケが回ってくる。どちらも、選考を「相手を理解し合う場」ではなく「その場をやり過ごす場」にしてしまっている点で同じだ。基準を言葉にし、実態を正直に話す。この2つが揃って初めて、選考はフェアな相互理解の場になる。

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「年収1000万稼げます」は、もう刺さらない|今の候補者が本当に見ている条件

「年収1000万稼げます」は、もう刺さらない|今の候補者が本当に見ている条件
採用支援2026.08.20文・林勝郎

中小企業の求人でよく見かける「頑張り次第で年収1000万も可能」「高収入」という打ち出し方。経営者としては、これが一番の魅力だと信じて疑わないことが多い。だが今の候補者にとって、待遇の良さは「魅力の一つ」ではあっても、「決め手」ではなくなりつつある。

POINT 01給与と同じくらい、社風・人間関係が判断材料になっている

サムライト社が20〜30代400名を対象に行った調査では、転職活動中に重視する情報として「給与・福利厚生」が48.7%で1位、次いで「労働環境」が43.7%、「社風・カルチャー」が43.1%という結果が出ている。給与は依然としてトップだが、社風・カルチャーとの差はわずか5.6ポイントしかない。

つまり、「稼げること」だけを訴求ポイントにしている求人は、候補者が実際に見ている判断材料の半分にしか応えられていない。特に中途採用者では、この傾向が新卒よりも強く出ることも同調査で示されている。給与の話しかしていない求人票は、候補者にとって「情報が半分足りない」状態になっている。

背景には、働くことに求めるものの変化がある。長時間働いてでも稼ぎたい、という価値観が主流だった時代に比べ、今は「無理なく長く続けられるか」「安心して相談できる相手がいるか」を優先する候補者が増えている。給与を上げる余力が限られる中小企業ほど、この変化は追い風になる。待遇の額で大手と張り合う必要はなく、関係性の質で選んでもらう戦い方ができるということだ。

問題は、ここから先だ。「社風・人間関係も大事」という結論だけを知っても、求人票は1文字も変わらない。実際にどう書けば、それが候補者に伝わるのか。

転職時に重視する情報TOP3。給与・福利厚生48.7%、労働環境43.7%、社風・カルチャー43.1%の比較グラフ

POINT 02「稼げる」ではなく「どんな人と働けるか」を具体的に伝える

抽象的な待遇の良さより、具体的な人間関係の描写の方が、今の候補者には刺さりやすい。NG例とOK例で見てみる。

NG:「頑張り次第で年収1000万も可能」「アットホームな職場です」

OK:「入社1年目でも、週次のミーティングで先輩に直接意見を言える。有給休暇の取得率は82%」

「アットホーム」は、具体性がないぶん、どんな会社の求人にも書ける言葉になってしまっている。これだけでは、実際にどんな人たちと、どんな空気の中で働くことになるのか、候補者にはまったく想像がつかない。

言い換えにはコツがある。「和気あいあい」ではなく、実際に社内で起きている行動を描写する。「意見が言いやすい」ではなく「週次のミーティングでは、若手も遠慮なくアイデアを出し合っている」というように、誰が・いつ・何をしているかまで書く。評価の基準も同様で、「実力主義です」で止めず、「入社年数に関係なく、成果を出した分だけ評価が上がる」という具体的な仕組みまで書く。数字にできるものは数字で示す。有給休暇の取得率、平均残業時間、勤続年数の分布など、感覚ではなく事実で語れるものほど説得力を持つ。

もう一つ大事なのは、良い面だけを並べないことだ。ある求人票のリライト事例では、「17時半に終業・年間休日124日」という好条件と同時に、「短時間で集中して業務を進める必要がある」という厳しさも隠さず書いたところ、かえって”本気度の高い”応募者が増えたという結果が出ている。良い面ばかりの求人は、入社後のギャップにつながり、早期離職の原因になる。大変な面まで正直に開示している会社の方が、候補者からの信頼を得やすく、結果的にミスマッチも減る。

つまり「稼げる」を「どんな人と働けるか」に置き換えるコツは、①行動で描写する、②数字で裏付ける、③良い面と大変な面の両方を隠さず書く、の3つに集約される。

抽象的な「アットホーム」という言葉を、行動描写・数字・エピソード・正直な開示という4つの具体的な伝え方に変換する図

POINT 03職種によって、響く順番は変わる

すべての職種で、人間関係の訴求が給与より優先されるわけではない。専門性の高い技術職や、成果が明確に数字で評価される営業職などでは、依然として待遇の比重が大きい候補者も一定数いる。

例えば営業職では、「自分のアイデアで新しい商談を生み出せる裁量権」や「年功序列のない実力主義の成果報酬」が響きやすい。技術職では、未経験者には「研修制度が整っていて、9割が未経験からのスタート」という安心材料が効き、経験者には「どんなプロジェクトに関われて、スキルと収入がどれだけ上がるか」が効く。同じ「訴求を具体化する」でも、職種によって具体化すべき中身は変わるということだ。

大事なのは「人間関係さえ訴求すればいい」と一律に置き換えることではなく、募集する職種・年齢層ごとに、候補者が実際に何を重視しているかを確認し、その優先順位に合わせて訴求の配分を変えることだ。判断に迷う場合は、直近で入社した社員数名に、応募を決めた理由の優先順位を簡単に聞いてみるだけでも、自社の求人にとって参考になる材料が得られる。

POINT 04人手不足が深刻な業界ほど、これが効く:建設業を例に

「体育会系できつそう」「上下関係が厳しそう」というイメージを持たれやすい業界ほど、実は社風・人間関係の見せ方が採用の成否を分ける。代表例が建設業だ。

採用がうまくいっている建設会社に共通するのは、現場の写真や1日の仕事の流れ、社員インタビューを求人に載せて、職場の雰囲気を具体的に伝えている点だ。加えて、週休二日制や残業削減など、働き方の改善に取り組んでいる場合はそれをきちんとアピールすることで、「長時間労働できつい」という先入観を崩している。

つまり、体力的にきつそう・古い上下関係がありそう、というイメージが先に立つ業界ほど、抽象的な「アットホームです」ではなく、①現場が見える写真や動画、②社員本人の声、③働き方改善の具体的な数字、という”見せる情報”を意図的に増やす必要がある。これは建設業に限らず、介護・運送・製造業など、同じように人手不足とイメージの壁を抱える業界にも共通する考え方だ。

同じ構造は運送業にも当てはまる。帝国データバンクの調査(2026年7月)では、正社員が「不足」と回答した企業の割合は建設業66.0%、運輸・倉庫65.6%と、いずれも6割を超えている。求人票の中身を見ても、「トラックドライバー」ではなく「キッチン用品のルート配送(軽トラック)」のように車種・荷物まで具体的に書く、「月給28万〜30万円+賞与年2回」に加えて「28歳4年目で年収420万円」のような年次別の実例を出す、配送距離や運転時間を数値で示す(例:配送100〜150km、運転1日2〜3時間)といった工夫で応募が増えた事例がある。業種名が変わっても、やるべきことは同じだ。抽象的な言葉を、数字と具体的な情景に置き換えること。

正社員が「不足」と回答した企業の割合。建設業66.0%、運輸・倉庫業65.6%の比較グラフ

まとめ:待遇訴求を捨てるのではなく、片方に偏らせない

待遇の良さを伝えること自体は間違っていない。ただ、それだけで採用が決まる時代ではなくなっている。給与という判断材料と同じくらいの熱量で、「どんな人と、どんな空気の中で働くのか」を具体的に伝えられているか。求人票を見直すときは、この2つが揃っているかを確認してほしい。

給与も社風も、両方訴求していい。ただし、良い面だけを並べるのではなく、大変な面まで正直に見せることが、結果的に長く続けてくれる候補者との出会いにつながる。

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