「あの人がいないと回らない」から抜け出す|個人の自信を、チームの自信に変える方法

「あの人が抜けたら、うちは終わる」。中小企業の経営者から、冗談まじりにこう聞くことがある。だが、冗談で済まない話でもある。心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感(やればできるという確信)」を部下一人ひとりに育てることは大事だ。だが元DeNAで人材育成の責任者を務め、現在は株式会社Momentorの代表を務める坂井風太氏は、個人の自信だけに頼った組織は、実は思っている以上に脆いと指摘する。個人の自信を、チーム全体の”自分たちならできる”という自信に変えられるかどうかが分かれ目になる。
POINT 01個人の自己効力感を育てる3つの声かけ
結果ではなく、変化に気づかせる
NG:「目標120%達成、すごいな」で終わる。
人は自分の成長に驚くほど鈍感で、数字を並べられても「たまたまです」と受け流してしまう。結果への賞賛は一過性の満足で終わり、本人の中に”自信”として残りにくい。
OK:「1ヶ月前はこれ、できてなかったよな。今は普通にできてる。なんでだと思う?」
本人の中の変化に気づかせる問いかけをすると、自分では気づいていなかった成長を自覚できる。この主観的な気づきこそが、自己効力感の土台になる。
結果ではなく、持ち味・工夫を言葉にする
NG:「よくやった」「偉いな」で終わる。
結果ばかりを褒められた人は、次第に「この評価が崩れたらどうしよう」という不安の方が強くなり、失敗するかもしれない新しい挑戦を避けるようになる。
OK:「この粘り強さがあったから、あの案件を最後までやり切れたんだと思う」
結果に至る過程にある、その人の持ち味や工夫を具体的に言葉にする。相手をよく見ていないと言えない一言だからこそ、伝わり方がまったく違う。
武勇伝ではなく、等身大の弱さを見せる
NG:「俺が若い頃は、お前の10倍成果出してたけどな」
上司としては激励のつもりでも、部下からすれば「この人は特別な人間で、自分には同じことはできない」という絶望感にしかならない。
OK:「俺も同じところでつまずいたよ」
等身大の失敗談を見せることで、「あの人ができたなら、自分にもできるかもしれない」と思わせる方が、部下の挑戦を後押しする力になる。
POINT 02個人の自信だけに頼った組織はなぜ脆いか
上の3つを実践すれば、部下一人ひとりの自信は着実に育っていく。だが、ここで見落とされがちな落とし穴がある。自信のある個人が何人か育っても、それが「あの人がいるから回っている」という個人依存のままなら、組織としては危うい状態が続いているということだ。
事業が右肩上がりで伸びている間は、この状態でも問題は表面化しない。成長そのものが、個人依存のほころびを覆い隠してくれるからだ。しかし、どんな事業にも必ず踊り場が来る。成長が止まった瞬間、自信のある個人ほど「自分ならどこでも通用する」と判断しやすく、より条件の良い環境へ移っていく。そして一人が抜けたことをきっかけに、残されたメンバーが「あの人が辞めたなら、この会社もそろそろ潮時か」と連鎖的に浮足立ち、まとまって離職が続くということが起きうる。
例えば、営業成績の大半を一人のエース社員が支えている会社を考えてみてほしい。売上が伸びている間は、その活躍がそのまま会社の実績になり、誰も違和感を持たない。だが受注が伸び悩み始めた途端、「自分の実力ならもっと条件のいい会社でもやれる」と判断されて転職され、残ったメンバーも「あの人が辞めるくらいなら」と浮足立つ。これは特別な会社の話ではなく、個人の自信だけに依存した組織であれば、どこでも起こりうる展開だ。
つまり、個人の自己効力感を育てるだけでは足りない。それが特定の個人に閉じたままだと、事業が停滞した瞬間に組織そのものが崩れるリスクを抱え続けることになる。
POINT 03組織全体の”自分たちならできる”感を支える3つの柱
①チームとしての前進を自覚させる
人は放っておくと、自社の悪い部分にばかり目がいきやすい。「うちは変わらない」「あの件はうまくいかなかった」という空気が漂う現場に対して、リーダーがすべきなのは、客観的な事実を思い出させることだ。
「1年前は受託の仕事しかできてなかったけど、今は自社サービスをここまで回せるようになってる。確実に前に進んでるよ」というように、チームとしての歩みを具体的に振り返らせる。この集団としての前進の自覚が、停滞した時期にも屈しない粘り強さを生む。
②互いの持ち味を補い合う関係を作る
心理学者バンデューラは、自己効力感の概念を集団レベルに拡張し、これを「集団的効力感(組織効力感)」と呼んだ。組織効力感にとって一番避けたいのは、一人の突出した人材がすべてを解決し、周囲はそれを見ているだけ、という状態だ。これでは、その他のメンバーの「自分たちならできる」という感覚は育たない。
目指すべきは、それぞれ違う持ち味を持つメンバーが、互いに足りない部分を補い合っている状態だ。「ここはあの人の専門性に任せるけど、この泥臭い調整は自分がやる」というように、一人ひとりが不完全でも、組み合わさることでチームとして機能している実感を持てる関係性を作る。
これは日々のミーティングでの一言でも実践できる。「今回の案件がまとまったのは、あなたの提案力と、あの人の細かい確認があったからだよ」というように、成果の裏にある複数人の貢献を、本人たちの前で具体的に言葉にして伝える。誰か一人の手柄にせず、支え合いの構図をチームに見えるようにすることが、この関係性を育てる第一歩になる。
③一人ひとりに役割と貢献実感を渡す
中途半端な役割しか渡さないまま能力の高い人を細かい雑務に押し込めてしまうことも、組織効力感を壊す原因になる。
大事なのは、一人ひとりの持ち味を、チームの目的にはっきり接続してあげることだ。「この工夫ができるあなたが、ここを担ってくれるから、チームとしてここまで進める」と伝える。自分の役割がチームの結果に直結しているという実感を持てたとき、人は初めて「自分もこのチームの主役の一人だ」と思える。
まとめ:個人の自信は土台に過ぎない
部下一人ひとりの自己効力感を育てることは、組織づくりの出発点であって、ゴールではない。その自信を特定の個人に依存させたままにするのか、それともチーム全体の”自分たちならできる”という自信に変換できるのかが、事業が停滞した局面や、誰かが辞めた局面でも崩れない組織を作れるかどうかの分かれ目になる。




































